場所は変わって職員室。UTAU学園の教師たちが各自の机でそれぞれの作業をしているが、奥ではテッドとその前で正座をして並ぶ三人の生徒によって異なる空気を纏う空間が発生していた。
「よーしてめえら、何してくれたか言ってもらおうじゃねえか?」
テッドは竹刀で肩を叩くという「いかにも」な動作をしながら、目の前の三人の生徒に目をやる。
左から半ば目尻に涙がにじみ出ているタヤ、悪びれる様子の無いモン、無表情のイモコ・・・と、表情は三者バラバラだ。
(相変わらず接点の見出せない集団だな・・・)
モンの度重なる悪戯のせいで職員室に呼び出すという行動に慣れたテッドは竹刀で肩を叩きつつ、頭の中ではそう考えていた。
そして、テッドはバシッと竹刀で勢い良く床を叩いた。「ひぃっ!」とタヤは大袈裟に驚いていたが、モンとイモコは動じなかった。
「モン言ってみろ」
「はい、先生の背中に「私は変態という名の紳士です」という紙を張りました」
モンはあっさりとそれを口に出した。
「全く・・・この手の悪戯何回目だお前ら。あとモン、お前紳士の「紳」間違えてたぞ」
ぺらりとモンが張った紙をテッドが三人に見せる。
確かにテッドの言うとおり、紳士の「紳」が「神」になっていた。
「初歩的な間違いだな」
「ださいです・・・」
仲間のイモコとタヤに小声で言われ、モンは顔を赤くした。
「うるせえ!それにお前らだって気づかなかっただろ!?」
「いや?」
「私も気づいていましたが?」
「止めろよ!!」
モンが必死に反論するが、無表情のイモコがかける角眼鏡の光に打ち消された。
「あんまりにも楽しそうだったんで止めなかった」
「だからってお前らなあ・・・」
三人が言い合いを始める中、テッドはぶつぶつと自分の苦労話を始めるが三人は聞いていない。
「お陰で何故か俺が笑いものになるし、女子には妙な目で見られるし、ついには赤羽先生には仲間ですかと聞かれたし・・・散々だ、って俺の話を聞けええええ!!」
「す、すみませえええええええん!?」
弾かれたようにタヤがテッドに向き直る。モンとイモコものっそりとテッドに向き直る。
「そもそも何でやったかはもう聞かないが・・・おいイモコ、巻き添えのタヤはともかくとしてもお前は見てたんだよな?」
「はい、見てました」
ビシッと竹刀の先がイモコの鼻先に向けられる。
イモコも完璧な鉄面皮ではなく、ピクリと多少驚いた様子を見せた。
「だったらその時点で止めろおおおおおおお!!」
「止めろと言われていないので止めませんでした。それに・・・面倒だし」
しれっとしているイモコに対し、テッドは完璧に疲れきっていた。
「イモコ・・・お前って奴は。はあ・・・もうお前らはいつになったら懲りるんだ・・・もう授業の時間近いし帰れ、そして二度とやるな」
そうして案外あっさりと三人は解放されたのだった。
「はぁ・・・今回は何が悪かったんだろうなぁ?」
――昼休み終了5分前、まばらに生徒の姿が見える廊下の中でモンは帽子を被りなおしながら呟いた。
「お前が字を間違えたのが悪い」
「そこかよ!もう引き摺らないでくれ恥ずかしい!!」
「もうモンさんのお陰で私は散々ですよ」
片眼鏡をかけなおしたタヤは正面を向いていた顔をモンに向けた。
「そもそも貴方は何故いつも私を巻き込むんですか」
「そりゃぁ・・・・・・何でだろうな?なあ、何でだ?」
イモコとタヤに問いかけるが二人ともあさっての方向を見ただけで答えを得ることはできなかった。
「私に聞かないでくださいよ」
「同感」
「ひでえなぁ」と呟きながら、モンは黒縁眼鏡ごしに廊下の景色を見た。
「やっぱ、一人より二人・・・二人より三人のほうが楽しいよな」
「でも怒られるのはモンさんだけで十分です」
タヤに冷静に浴びせかけられたその言葉にショックを受けたのか、モンは一気に落ち込んだ。
「まあ、タヤの言うとおりだな」
「イモコまで・・・お前ら仲間だろ?」
「「いや?」」
軽く冗談交じりで投げかけた問は二人のピタリと合いすぎた冷静な返答で無に返された。
「でもなんだかんだいって・・・三人一緒だよな」
「・・・そうですね」
そして三人は教室に戻ったのだった。
+++後書。
まさかの二話構成。もう私の中で3グラスが定着したゆえの過ちだと思ってください。
もうそれぞれの中の人に謝りたい。特にモンとタヤ。
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