ある晴れた日のこと、家の中心で栄一は鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしていた。
何故ならば・・・
「え、カミラが声を出せるようになった?本当か!?」
栄一は一回り自分より体格の小さなタヤの肩を持ち、激しく揺さぶる。
「はっ、はい、本当ですっ・・・」
タヤも驚いているのか、慌てたような声を出す。しかし、その答えを聞いた栄一は揺さぶりをかけていた手をぱっとあっさり離した。
「そうか・・・本当によかった・・・」
そう言うなり、栄一はスタスタと廊下に出て突き当たりの壁の右に見えるある一室に向かおうとしたが、その前に栄一は右腕をタヤにしっかりと掴まれた。
「ど、どうしたタヤ?」
「カミラさんは居ませんよ」
本来の調子が戻ったのか、タヤは片眼鏡をかけ直しながら冷静に言葉を紡ぐ。
「は?」
今のタヤの言葉にショックを受けたのか、呆けた顔をするがタヤはため息をついて言葉を紡ぎ直す。
「だから、カミラさんは今ここに居ないんです」
栄一は落ち込んだのか一瞬だけ言葉を無くすが、慌てて疑問を口に出す。
「じゃっ、じゃあ声とかっていうのは?」
「さっき洗濯物を干そうとした時にカミラさんが喋っているのを見まして・・・そのあと、出かけて行きましたよ」
「出かけたって何処に!?」
栄一は再びタヤの肩に掴みかかろうとするが、その前に栄一の後ろから淡々とした少女の声がかけられた。
「カミラならH島に行ったよ」
「コハナ・・・!」
コハナと呼ばれた少女のような外見の女は無表情でじっと栄一の黒い眼を見つめる。
灰色の瞳に見つめられながら、栄一は次の言葉を待った。
「マスターから伝言。カミラをH島に行かせたから後で栄一も行って来いってさ」
「え・・・えええ?」
H島とは、栄一たちと同居しているマスターの家の近くにある遊園地のことだ。家から歩いて30分の距離にあるということだけは知識として知っているのだが、行くことがないので栄一は言葉の意図を掴めなかった。
「でもって、最低でも四時半まで帰ってくるなってさ」
現在は10時半。今から家を出てH島に着いたとしても11時くらい、帰ってくるなと宣告された4時半までの時間は長い。早い話、栄一にカミラとデートして来いという内容なのだがその辺に対して栄一は鈍感なのか、一気に顔を青ざめさせてしまった。
「ななな、なんで!?俺なんかした!?な、なあ!?」
「さあね」
慌ててコハナとタヤに問いかけるが、二人は意味深な笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。
栄一は頭を抱えて「俺なんかマスターに追い出されるようなことしたっけ!?」とかブツブツと呟きだした。
「・・・で、家をいつ出てけと?」
この世の終わりのような顔をした栄一に反して、コハナとタヤは淡々と答えを返す。
「んー、11時くらいに着いてカミラと会うようにって言ってたっけ」
「じゃあ、もうそろそろですね」
「と、いうことはもう行かないと遅くなるってことか。じゃあ・・・行ってくる!!」
栄一はロングコートを翻し、ダッシュで家を出ようとした・・・が、しかし。
「とおおおおおおおおおっ!!」
素っ頓狂な叫び声がしたかと思うと、ドアノブに手をかけようとした瞬間に栄一はゴッと後頭部に衝撃、そして一秒遅れて鈍い痛みを感じた。
「い・・・いってえな!!」
目じりに軽く涙を浮かべ、後ろに振り向く。栄一の後ろには仁王立ちのモンと、呆れた表情のタヤと栄二が立っていた。モンはびしっと栄一のロングコートを指差した。
「栄一お前・・・まさかその格好で行くのか!?」
「うん、そうだけど?」
信じられないといった様子でモンは言うが、栄一はごく平然と答えた。
「信じられないぜ、カミラはそりゃもうお洒落坂を駆け上がるようなファッションで家を出たというのに何だ栄一は。いつもと同じかよ!」
「これから家を追い出されるのに格好も何もあるのか?」
何が何だかもう分からなくなった栄一はおろおろとした様子で周りに問いかけるが、皆ため息をついただけだった。
「栄一さん、確かにさっき急げとは言いましたがその格好で出かけろとは言っていませんよ」
「兄ちゃん、女心が分かっていないよ」
「?」
栄一は本気で家を追い出されると思い込んでいるので、皆はどう説明すべきか言葉に詰まってしまった。
「ああもう仕方ない!問答無用で栄一をカミラの前に立たせても恥ずかしくないようにしてやるぜ!!」
「え、えええ!?」
モンはガッと栄一の着ている服の襟を掴んだ。
「そうですね!」
そういうなりタヤは腕を掴む。その声はタヤにしては珍しく張り切っている。
「僕も手伝うよ」
栄二は栄一の両足を持った。
「な、なんだおまえらああああ!?ちょ、栄二!せめて足はおろして!?」
「無理です」
栄一は必死に抗議の声を出すが、いともあっさりとそれは却下された。
「だめだめ、兄ちゃんをこのまま家から出すわけにはいかないもん!」
「なんだそりゃあああああ!!」
その悲鳴を最後に、栄一はモン達にある一室に引き込まれたのだった。
「なんだ?栄一がさっきから凄い悲鳴をあげているようだが」
のっそりとベランダから部屋に入ってきたイモコがコハナに問いかけた。
「うん、デートの下準備ってところ」
「そうか」
その答えを聞いたら興味がなくなったのか、イモコは部屋の隅に置いてあった本を手に取り読みだしたのだった。
続く
+++追記
栄一とCamilaのメルトの裏側といっても過言ではありません。
テトが出ていないのは混乱防止のためです。メルトをアップしたのは引き取りに出す前でしたが、パソコンを初期化してからはテトは迎えていませんので出しませんでした。
色々と動画と比べて変わっているところがありますが、ネタとして楽しんでもらえれば。
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