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201号実験室(Lostempty`s lab)

UTAUについて色々奮闘するページです。初めての方は概要をカテゴリから選択して見て頂けると良いと思います 
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桜井がキャベツと一緒に行動する理由とかのアレコレは設定メモに書いてもややこしい上に面倒くさいと思ったので書いていませんが、あえて追記にSSとしてしまいます。
中の人が色々書いていても表に出さないもの…メモに書いてある公式の(?)設定ではなく、単なる妄想として受け取って置いて下さい。
甘藍の口調が家によっては敬語だったり、桜井に対しては「さくらい」とひらがなで読んでいたり、一人称が「おいら」だったり。桜井が家によっては男だったり…同キャラの家ごとに違いがあるのは中の人としてはとても楽しいです。桜井の好きな物・苦手な物は後付けの設定ですが、それ以外のメモに書いていないものは別に公式なわけでもないようなものなので各自好きに妄想してやって下さい。

追記でSSがパーン。


それはある日の夜、自室に向かっていた時だった。

「~……」

扉を閉じた部屋から誰かの声が微かに聞こえてくる。
申し訳程度な音量で紡ぎだされるそれはどうやら歌のようだ。誰だろうと思って扉に耳をつけて聴いたが、最近この家に新たにやってきたシンガー…甘藍のことだろうと俺は思った。
最近やってきたそのシンガーは奇妙なことに足の生えたキャベツで、目や口が無いので何処から声を発しているのかはよくわからない。しかし、歌を歌えるという事実がある。
「~…~……!!」
しかし、何か変だと思った。なぜなら、消え入りそうな程小さな声で紡がれている歌は俺の知っている曲だったのだが、テンポと言い音階と言い、何かがおかしい。ハッキリ言って外れている。
歌いなれていないのだろうか、中で歌っている甘藍に気付かれないように音を出来るだけ立てないように扉をそっと開いて中を覗き見る…と、そこに居たのは足の生えたキャベツではなく――
「…さ、桜井さん!?」
「~……!?」
俺は思わず驚いて大きな声をあげてしまった。何故なら、部屋に居たのが甘藍と同じ声を持つ人間……桜井さんだったからだ。ちなみにこの人は段ボールに入った甘藍と一緒にこの家に来てから数日経っているのだが、未だに俺は下の名前を知らない。一度タヤが聞いていたが「私は甘藍のおまけの桜井、それだけで十分です」というだけで教えてくれなかった。

そして、桜井さんは覗かれたという事実に驚いたのか、俺の声に驚いたのか血の毛の薄い顔を真っ赤にしてあたふたし出した。いつもクールを通り越して何処か枯れ切ったような様子のあの人にしては珍しい動作だ。
何か…申し訳ないことをした。
「えーと、覗いてごめん」
「え、栄一さん……その…聴いたんですか!?」
聴いたっていうのはさっき歌っていたもののことだろう。
「うん……」
そう言うと桜井さんはしゅん、と小さくうつむく。やっぱり聴かれたくなかったんだろうな、悪いことをした。俺は「ごめん」と一言言って立ち去ろうとしたが、桜井さんに腕を引っ張られて部屋の中に入れられてしまった。
……困ったなあ。

「えっと、……私、歌下手ですよね…」
部屋の扉をぱたんとしめて、俺を見つめるなり桜井さんが初めに言った一言はこれだった。
「……そうだね」
何か適当な言葉でフォロー出来ればよかったんだろうが、残念なことに桜井さんは甘藍と違って音痴だった。甘藍の世話人であってシンガーではないから歌が上手い必要はないとはいえ、素直に「そうだね」なんて俺も気が利かない。
「…ごめん」
「いえ、いいんです。私が歌下手なのは私が一番判っているつもりですから……」
そう言って俺から視線をそらした桜井さんは何処か寂しげだった。相変わらず性別の判らない顔だとぼんやり感じた。
落ち込む桜井さんを励まそうと思ったのか、俺が空気に耐えきれなりそうだったからなのか、無理やり話を反らすことにした。
「そ、そういえば桜井さん!桜井さんは何で甘藍と一緒に居るのっ?」
場の空気に合わない話題だが、俺の気になっていることだった。桜井さんは恥ずかしそうに顔を伏せる。
「…私は、甘藍に憧れているんだと…思います……」
「憧れ?」
桜井さんはぽつぽつとか細い声で言葉を紡ぐ。
「私、研究所に居たころ…よく、一人の時に歌を歌ってみてはその度に自分の下手さに絶望していたんです……かっ、科学者なのに…歌うことに憧れる、なんて…おかしいですよね……」
「そうでもないと思うよ……歌いたいと思うのに職業とか関係ないよ」
「そうですか…有難う御座います……」
照れたように桜井さんは笑う。よかった、多少元気づけられたようだ。語られる言葉も普段のぽつぽつとした単語のつぎはぎのような様子から、段々と滑らかになっていく。
「…あの時、研究室でキャベツを栽培していたんですが……私の歌への憧れが物言わぬただのキャベツに乗り移ったんでしょうね……吃驚しましたよ、いきなり足が生えてきて…」
「え」
思わず間の抜けた声を出してしまった。音を聴いて育った植物にはなんらかの影響が現れるという話を聞いたことはあるが、植物っていうか野菜に足が生えてくるという話は聞いたことが無い。
あり得ないと言いたくなったが、実際に足が生えた野菜が居るのだから否定が出来ない。俺が言葉に迷っていると桜井さんが弱弱しく微笑みかけてきた。
「で、なんて言ったと思います?」
「……?」
さっきから色々とおかしすぎて何も想像が出来なかった。甘藍の第一声を考えている俺の顔が面白いことになっていたのか、くすりと笑うと桜井さんはこう言った。
「僕が代わりに歌うから泣かないで……って、私の声で言ったんですよ」
「そんなことが…」
「…何故、私の声を持って甘藍が生まれたのかは判りません……でも」
「でも?」
「私の声なのに、私よりもずっと上手く歌える甘藍に憧れて……私は一緒に居るのかもしれません…」
色々世話を焼く人だなーとはつくづく思っていたが、自分の思っている以上に深い理由を持っていたらしい。よく見ると桜井さんは恥ずかしかったのか顔を赤くしていた。
「甘藍がどう育つのか、私が一番見てみたかったんだと思います……えっと、何も出来ないのに、甘藍にくっついている私はいらない存在なのは分かっています……」
自分で言っていて段々と辛くなってきたのか、段々と俯いていく。
幾らシンガーの後ろの存在とはいえそれは卑屈すぎる。俺は反論の言葉を探す。
「それは無い、言いすぎだよ……他の皆はどう思っているかは知らない、でも俺は桜井さんは少なくとも甘藍に必要な人だと思う……」
うつむいていた桜井さんは驚いたように「えっ」と小さく声をあげた。白に近い灰色の目は驚きで見開かれている。俺はそんなに変なことを言っただろうか。
「…有難う御座います、少し、救われました」
「えーと、それはよかった」
最初は脚の生えたキャベツの入った段ボールを持って現れた怪しい人だと思っていたが、今では甘藍とこの人が一緒で初めて意味をなすような――なんだかそんな気がした。変わったコンビというのは拭えないのだけれども……そう思った矢先のことだった。

「うわーん桜井ー!!」
騒々しく廊下を走る足音とともに声が聴こえた。今度こそ桜井さんと同じ声を持って生まれた(?)甘藍だ。
声からするに何か起こったようだ。腕の無い甘藍の為に閉められていた扉を開けてやる。
すると甘藍が「桜井ー!!」と叫びながら桜井の元に飛び込んできた。
「どうしましたか甘藍」
すっかり元の冷静さを取り戻したらしい桜井さんは甘藍を抱き抱えつつか細い声で問いかける。
桜井さんに抱かれた甘藍は泣いているように身体(というかキャベツ)を震わせながら答える。
「虫がっ…虫が外から飛んできた…」
「…何だ、虫ですか」
何だ、なんて言いつつも桜井さんはいつの間にやら殺虫剤を片手に構えていた。やっぱり甘藍を大切にしているんだな、この人。
「何処に、いるんですか」
それは甘藍が答える必要は無かった。何故ならリビングから皆が騒ぐ声が聴こえたからだった。

「うわあっ!Gが飛んできた!!」
「食べ物隠したほうがいいわね」
「くらえっ!」
「モンさん私の頭を殴らないでください!!」
「それは非合理的だ、モン」
「オオルリが窓を開けたのが悪い」
「なんでそうなる!」
「外へ追い出さないと!」
「ミートソースで殺せるかしら」
「それは掃除が面倒だからやめろ」
「えー」
どうやらオオルリが窓を開けたら運悪く黒い悪魔が飛んできたので追い出すか葬ろうとして必死だといったところだろう。それを思うとなんだか肩の力が抜けてきた。

「…リビング、ですね。甘藍はここにいなさい、すぐに終わりますから…」
「……うん」

そう言って、右手に殺虫剤を構えた桜井さんはリビングに赴いたのだった。
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